物流不動産とは：進化する物流を支える新たなインフラ

　近年、EC市場の拡大や小売業における物流改革の進展に伴い、物流業界は大きな変革を迎えています。

新型コロナウイルスの流行により、人々の対面接触が制限され、それに伴いインターネット通販が急速に拡大しました。この急増するEC市場において、商品を効率的に保管・管理するための高度な倉庫サービスが求められるようになりました。
こうした変化に対応するため、物流施設もまた進化を続けており、その中でも注目を集めているのが「物流不動産」です。

物流不動産とは
1. 物流不動産の特徴
2. 物流不動産の２つのタイプ
物流不動産を利用している業種・業界
物流不動産の変遷
物流不動産の今後の展望
まとめ

物流不動産とは

　物流不動産とは、物流業務を行うための倉庫や物流センターなどの施設を、企業などに貸し出すビジネスです。荷物の保管、仕分け、配送といった物流業務を効率的に行うために必要な設備や機能が備えられています。

従来の倉庫業は、利用した分の料金を支払う仕組みでしたが、物流不動産は借りた広さに応じて賃料を支払うのが一般的です。
近年では、単なる倉庫だけでなく、商品検品や梱包作業などの付加価値サービスを提供する物流施設も増えています。

物流不動産の特徴

　従来型の倉庫業とは異なり、物流不動産は荷物の保管だけでなく、様々な付加価値サービスを提供する物流不動産。その特徴について見てみましょう。

物流不動産の特徴
①固定費を抑え、コスト削減
②多様化する物流ニーズに対応
③３PL事業者との相乗効果で業務効率化
④安定した賃料で低リスクの投資対象
⑤エリア拡大で物流網の強化の可能性も

物流不動産の２つのタイプ

さて、物流不動産には、大きく分けて2つの種類があります。

① マルチテナント型：用途を選ばない柔軟な設計でコスト削減
　マルチテナント型は、複数のテナントに貸し出すことを前提に、比較的用途を選ばない柔軟な設計で造られる物流施設です。コストを抑え、汎用性の高い物流施設を求める企業にお勧めです。

▶比較的大型: 複数のテナントの利用を想定しているため、規模が大きくなります。
▶広い柱スパンとトラック動線: レイアウトの自由度が高く、効率的な荷物の積み下ろしが可能です。
▶設備・機能の共用: 複数のテナントで設備や機能を共有することで、コストを抑えられます。
▶安定した収益: 空室リスクが低く、安定した収益が期待できます。

マルチテナント型の活用例
●一般的な物流倉庫
●食品倉庫
●衣料品倉庫
●家電倉庫

②BTS型：オーダーメイドで理想の物流空間を実現
　BTS型は、特定のテナントからの要望に合わせてオーダーメイドで設計・建設される物流施設です。テナントのニーズに特化した物流環境を実現できます。

▶ニーズに合わせた柔軟さ：冷凍冷蔵倉庫、医薬品倉庫、危険物倉庫、重量物倉庫など、テナントの要望に合わせて設計可能
▶自社倉庫と変わらない環境：テナントにとって、自社倉庫と変わらない環境で利用可能
▶低コストで特殊な倉庫を利用：テナントの要望に合わせたオーダーメイド設計が可能

BTS型の活用例
●冷凍冷蔵倉庫：食品メーカー、医薬品メーカー
●医薬品の製造管理用倉庫：医薬品メーカー
●危険物を保管管理する倉庫：化学メーカー
●重量物対応の倉庫：自動車メーカー、建設資材メーカー

物流不動産を利用している業種・業界

　物流不動産は、物流事業者（3PL）や配送企業、小売業やEC業界、そしてアパレル業界など、幅広い業種が利用しています。
物流不動産は単なる荷物の保管場所ではなく、流通加工作業も提供することが増えています。

物流不動産を利用している業種・業界と、それぞれが物流不動産を利用する事で得られるメリットを見てみましょう！

物流事業者（３PL）

　3PL事業者は、荷主から委託された物流業務を代行する企業です。
物流不動産を活用することで、以下のメリットを得ることができます。

★柔軟な拠点展開:
荷主のニーズに合わせて、必要な場所に物流拠点を迅速かつ柔軟に開設することができます。

★コスト削減:
自社で倉庫や物流センターを建設・運営するよりも、初期投資を抑え、ランニングコストを削減することができます。

★業務効率化:
最新設備を備えた物流不動産を活用することで、ピッキングや梱包などの作業効率を向上させることができます。

配送企業

　配送企業は、荷物を消費者に届けるまでの配送業務を行います。
物流不動産を活用することで、以下のメリットを得ることができます。

★配送網の強化:
　荷主の近くに物流拠点を設けることで、配送時間を短縮し、配送品質を向上させることができます。

★在庫管理の効率化:
　在庫管理のためのスペースを確保することで、在庫回転率を向上させ、在庫コストを削減することができます。

★業務の集約化:
　複数の配送拠点を物流不動産に集約することで、業務効率化を図ることができます。

小売業

　小売業者は、店舗やオンラインストアを通じて商品を販売します。
物流不動産を活用することで、以下のメリットを得ることができます。

★オムニチャネル対応:
　店舗とオンラインストアの在庫を統合管理することで、顧客体験を向上させることができます。

★ラストワンマイルの効率化:
　顧客に近い場所に物流拠点を設けることで、ラストワンマイルの配送コストを削減することができます。

★返品処理の迅速化:
　返品処理のためのスペースを確保することで、返品処理を迅速化することができます。

EC業界

　EC企業は、インターネットを通じて商品を販売します。物流不動産を活用することで、以下のメリットを得ることができます。

★大量注文への対応:
　大量注文に対応できる広さ・設備を備えた物流施設を確保することで、円滑な受注処理を実現することができます。

★顧客満足度の向上:
　短納期配送を実現することで、顧客満足度を向上させることができます。

★在庫管理の効率化:
　在庫管理システムと連携した物流施設を活用することで、在庫管理を効率化することができます。

アパレル企業

　アパレル企業は、衣料品や服飾雑貨を製造・販売します。物流不動産を活用することで、以下のメリットを得ることができます。

★シーズンごとの在庫管理:
　季節商品に対応できる広さ・設備を備えた物流施設を確保することで、効率的な在庫管理を実現することができます。

★ハンガー保管:
　衣料品を傷つけずに保管できるハンガー保管設備を備えた物流施設を活用することで、商品品質を維持することができます。

★返品処理の迅速化:
　返品処理のためのスペースを確保することで、返品処理を迅速化することができます。

物流不動産の変遷

　近年、日本社会は人口減少・少子高齢化や国際競争の激化、情報通信技術（IT）の進歩など、大きな変化を迎えています。それに伴い、荷主や消費者の物流に対するニーズも高度化・多様化し、物流施設の役割も大きく変化しています。

かつては、荷物の保管が主な役割だった物流施設ですが、1990年代後半頃からは、荷主のニーズに合わせてコスト削減やサプライチェーンの最適化といった付加価値サービスを提供する「配送型物流施設」へと進化しました。

近年では、さらに高度なニーズに対応するため、ITシステムや自動化設備を導入した高機能な物流施設や、災害に強い免震・制震構造の物流施設などが開発されています。

物流不動産の今後の展望

　物流不動産は、今後も進化を続けながら、物流業界を支える重要な基盤となっていくことが予想されます。今後は、さらに以下の点が重要になると考えられます。

EC市場の拡大に対応した物流施設の開発:
EC市場の拡大に伴い、より迅速かつ効率的な配送を可能にする物流施設の開発が求められています。
労働力不足への対応:
労働力不足への対応として、自動化・省人化設備の導入や、ロボット技術の活用などが進められています。
災害対策の強化:
近年頻発する自然災害への対策として、免震・制震構造の物流施設や、停電時も稼働できる電源設備などを備えた物流施設の開発が求められています。
環境への配慮:
環境負荷低減への取り組みとして、太陽光発電設備の導入や、省エネ設備の導入などが進められています。